2007年12月05日

チャイコフスキーを読む

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

チャイコフスキーは日本人に人気の高い作曲家の一人です。
私のお世話になったロシア人の幾人から、なぜ日本人はチャイコフスキーが好きなのか、と尋ねられたことがあります。
また、モスクワ在住中には何度もコンサートに足を運びましたが、チャイコフスキーが特段の人気を博している訳でもなさそうです。

故国ロシアよりも、日本での格付けの方が高いように思われますが、何故でしょう。
「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」に代表されるバレエ音楽のメロディーラインとフレーズの美しさ、ビアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲に代表される情緒的な曲想などが、日本人の心の琴線によく響くのでしょう。
誰だったか、チャイコフスキーの音楽を演歌になぞらえて人気の秘密を論じているのを聞いたことがあります。
チャイコフスキーと演歌では、ちょっと距離があり過ぎだよ、と思ったのですが、
・悲劇的なテーマ
・泣かせるメロディー
・メリハリの利いたオーケストレーション
あたりに共通点がありそうです。

オーケストレーションについて言えば、チャイコフスキーは交響曲をはじめ、オーケストラ全体で同じフレーズを演奏させる手法を多用しています。
いよいよクライマックス、というシーンで、この手法を使うと、なんとも扇情的な音の渦に呑み込まれる感じがします。

(例)交響曲第5番 第1楽章から
チャイコフスキー交響曲第5番第1楽章
(クリックで拡大)


2007年12月03日

チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の第1楽章、展開部に入る直前の、クラリネットとファゴットの楽譜です。

tchai6.jpg

クラリネットが沈鬱とした旋律を引っ張ってきた後、突然ファゴットに旋律が引き継がれます。
そして、目を疑うような弱音記号「pppppp」が指示されています。

CDを聴く時注意して聴いてみると、大抵の演奏では、ここはファゴットでなく、バスクラリネットで演奏されているのが分かります。確かに、クラリネット同士で引き継いだ方が音色もスムースにつながり、弱音もきれいに出ます。

チャイコフスキーの他の曲には良くバスクラリネットが登場しますが、なぜここでは、敢えてファゴットを使ったのでしょうか。

第1楽章冒頭部を聴くと、この曲はファゴットの旋律で始まっています。ファゴットは曲全体を覆うテーマのシンボルになっているのが分かってきます。
提示部の最後に、「pppppp」という弱音、クラリネットからファゴットの音色に変化させることで、救いようのない情念のため息のような、この曲のイメージを定着させようという試みのような気がします。

この部分はバスクラリネットではなく、ファゴットによる暗示されたモティーフをきちんと表現するような演奏が正解ではないか、と、楽譜を読み解くことができないでしょうか。

2007年08月04日

楽譜を「読む」

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

楽譜を「読む」つまり譜読みについて、クラシック音楽に興味を持った方がその先の世界へ足を踏み入れるきっかけになるよう、このコーナーを開設しました。

第一章
http://classicjourney.seesaa.net/article/48396388.html
そもそも「譜読み」にはどういう意義があるのか。なぜ音楽の理解に「譜読み」が重要なのか。
譜読みに関心をもって頂くための導入部。

第二章
http://classicjourney.seesaa.net/article/48588376.html
オーケストラ・スコアの紹介。実際に「譜読み」をしてみます。譜読みの楽しさを実感して頂きます。

第三章
http://classicjourney.seesaa.net/article/48399440.html
譜読みをする上で役に立つ、ガイドブックを紹介します。

2007年07月29日

楽譜を「読む」− 第三楽章

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

スコアを始めて手にする人には、ガイドがあるとよいでしょう。
私が読んだガイドブックの中から、お勧めの3冊を紹介します。

まずは、スコアを出版している大手の全音からの一冊。題名はそのものずばりの「スコアリーディング」です。
オーケストラを構成する楽器たちと、それらがスコアの中でどのように「つながって」いくのかが分かりやすく解説されています。値段もとってもお手頃です。
オーケストラがどういう楽器で構成されているのか、大体はご存知かも知れませんが、では、作曲家が交響曲などを書くとき、それぞれの楽器にどういう役割を与えることが多いのか、どういうつながりをもって音楽が進行していくのか。ここに書かれていることは、音楽を本格的に理解する上で必要な要素です。

スコアリーディング (スコアを読む手引き)

スコアリーディング (スコアを読む手引き)


続いての一冊も、オーケストラすなわち交響楽団の構成について、よりヴィジュアルに解説されているガイドブックです。楽譜というよりは、演奏についての理解を深める上で役に立ちます。一気に読んでしまえる、楽しめる一冊です。

はじめてのオーケストラ・スコア―スコアの読み方ハンドブック

はじめてのオーケストラ・スコア―スコアの読み方ハンドブック


続いては、『N響アワー』でおなじみの池辺晋一郎による入門書。作曲家みずからが書いた本なので、なるほど楽器をどう「鳴らす」か、メロディーはどこに現れるのか、など、作曲者の意図を読む方法がふんだんに紹介されています。
それと合わせて、コラムがとても面白い。入門書ですが、オーケストラや音楽にある程度の関わりをもっている人にも初めて聞くエピソードが目白押しです。

オーケストラの読みかた―スコア・リーディング入門
オーケストラの読みかた―スコア・リーディング入門



どれも「入門」と書かれていますが、いつまでも繰り返し読み返すガイドとして長く使えますし、すでにクラシック音楽と長く付き合っている人にも、それゆえの新しい発見や楽しみ、知識の整理に役にたつはずです。
スポーツでも釣りでも、始めるときにはガイドが必要ですよね。クラシック音楽もそうですよ。



2007年07月26日

ベートーベン 交響曲第九番 第一楽章 冒頭

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

手始めに、「第九」第一楽章の冒頭部分について、楽譜を読んでみましょう。

b0901-1.png






冒頭部分の弦の楽譜です。

楽譜の下半分では、EとAの音だけがppで鳴っています。間に挟まるべき音が欠けていて、長調なのか短調なのか定まらないため聴く耳にとても不安を与えます。
そして、楽譜の上半分では、上から下へと急激に落ちてくる音があります。「チラッ」「チラッ」遠い雷雲の中の稲妻のような鋭さです。
まるで天地創造から間もない原始地球の、大いなる混沌を目の当たりにするよう。

この音型は空白五度と呼ばれ、ベートーベンの時代でも「禁じ手」とされていた音型です。この音を敢えて用いて不安定感を表現してみせたところに、ベートーベンの天才を見ることができますし、古典時代からロマン派へと音楽が移り変わったことを見て取ることもできます。これだけでも聴く者をうならせるパワーがあるのですが、この先すぐに、聴衆の予想を裏切る次の一手が用意されているのです。

ずーっと続いている不安な和音、一体どちらに解決するつもりだろう、イ短調か?イ長調か?と思っているところに、14小節目に突然主音Dが現れ、みるみる間にDが主役となり、ニ短調の主題がffのユニゾンで叩きつけられるのです。

ここまでたったの17小節です。譜読みする楽しみは尽きません。

2007年07月21日

楽譜を「読む」− 第二楽章

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

引き続き、楽譜を「読む」ということについて。

何を読むかというと、指揮者の使う「オーケストラ・スコア」を読みます。
「オーケストラ・スコア」というのは、オーケストラの全楽器の奏でる音がすべて記された楽譜です。ピアノ譜であれば、せいぜい「右手」「左手」の2段の五線譜で済みますが、オーケストラともなると五線譜が縦に十数段ずらっと並びます。
大抵、1ページまるまる使用するので、曲の進行に合わせて視点は左ページから右ページへと折り返すことなく流れていくことになります!

指揮者でもなければ、スコアなんて読んでも、???ですよね。

スコアにも読み方があります。音符は読めない、という方でも、スコアを「読む」ことはできます。
高い音と低い音、強い音と弱い音。その程度が理解できれば大丈夫。自分の好きな曲のスコアを用意して、何度でもCDを聴きながら目で追ってみる。ここがカッコいいところ、と思うところに印をつけたり、メモを書き入れてみる。何度か繰り返していると、自分が書き込んだメモと再び出会って、新しい感動や発見が生まれる。

それだけでなく、その曲についての詳しい知識も得られます。
全音楽譜出版社や音楽之友社から出版されているスコアには、楽譜だけでなく、その曲の解説がかなり詳しく書かれています(当然、日本語で)。

例えば、音楽之友社のベートーベン交響曲第九番のスコアであれば、
・巻頭から3ページは曲の成立、初演までの経緯、曲の特徴
・続く12ページは、各楽章の説明
といった具合です。そしてこの各楽章の説明には、曲の進行に伴って何が起こっているのかを、小節の番号付きで書いてあります。

第一楽章の説明からほんの一部を抜粋してみると、
〜第9の最も基本的な素材はニ調の属音と主音の5度d-aである。〜曲尾にいたるまで偏在している〜壮大な構えの第1主題(17-35)〜繰り返されようとするが、今度はd-a上から49でいきなり変ロ長調にずれる〜変ロ長調のままで第2主題部(80)となる〜緊張感が増してコデッタの素材(o)に戻るが、コデッタの確信にt概してこちらは減七の脅威である。〜きしむような響き(217第1拍)にも注目。〜再現部の開始部分はこの楽章で最も激烈な音楽で、〜312の最後から主題そのものの再現にいたる箇所の強引ともいえる和音変化は〜なお、523のホルンの32分音符は16分音符が正しい。

といった具合です。

そして、全体が見渡せるように図解までされています。
(クリックで拡大)
b09.jpg


この解説を、取りあえず受け入れてみて、実際の楽譜の中に書き写してみます。そして、曲を聴きながらスコアを読み飛ばして行くと、
耳に入ってくるこの音はこういう寓意がこめられている、というふうに「出会う」ことができるのです!

スコアを読む楽しみは、まずここから始まるのです。

2007年07月19日

楽譜を「読む」− 第一楽章

音符は読めない、という方でも、「楽譜を読む」ことはできるのです。

「のだめ」ブームもあって、クラシック音楽を深く知りたい、と思ってここを訪れてくださった方、ありがとうございます。
クラシック音楽、特にシンフォニー(交響曲)を深く楽しむ=理解するために、楽譜を「読む」ことを一度は試してみませんか?

音楽を理解する、とはどういうことなのか、私の思いつきですが、以下のようなパターンがあるように思います。

@演奏者への共感⇒曲への理解
その演奏を聴くことで、演奏者の心と結ばれる、というパターンです。ライブを聴いて味わえる喜びです。

「のだめ」ファンなら、ベートーベンの交響曲第七番を聴くとワクワクしますよね?
それは、この曲=千秋の情熱、Sオケの熱演というイメージが心の中にあるからではないでしょうか。

A作曲家への共感⇒曲への理解
作曲した時、作曲家がどういう境遇にいたのか、というエピソードを知ることで、曲そのものからメッセージを聴き出す、というパターンです。伝記を読んだり、音楽史を学ぶことで造詣が深まります。

B曲そのものへの理解
作曲家がその曲に何を託したのか、曲そのものを読み解いていくパターンです。
作曲家との対話をしながら何かを発見し、その度にその曲が自分のものになっていくのを感じることができます。

「のだめカンタービレ」で千秋真一が一心不乱に「譜読み」する姿を見て、「カッコいい」と思ったところから入って下さっても結構です。千秋が傾けた情熱の後追いをするつもりで、楽譜を読む、ということをご一緒に試してみましょう。
読んで下さってありがとうございました。
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